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日系企業とダイバーシティ (1) 「日本人だけ」が生み出す危険な罠~文化の壁が生み出す日本企業の危険性

  • Taka Muraji 村治孝浩
  • 2021年10月5日
  • 読了時間: 5分

前回は、「真面目な顔つき」が及ぼす心理的なマイナス効果についてお話しました。今回は、「日本人だけ」という習慣が、気づかぬうちに企業を窮地に追い込む可能性についてお話しましょう。


日系であれば、どんな企業でも「日本人以外は御免」という状況があるものです。良くあるケースは、日本人だけで固まってランチを一緒にとる、もしくは、日本人だけで週末はゴルフに出かける、といったものでしょう。これは、同じ文化を共有しているもの同士、日本語でいろいろな話を楽しみたい、多忙な毎日の中でつかの間日本人だけでホッと一息つける時間がほしい・・・等々、異文化の中で暮らす日本人のストレスを解放する、という視点から見れば、ごく自然な行動と言えるかも知れません。


日本人だけの会議が落とし穴を生む

しかし、このような「日本人だけ」という行動が、マネジメントに入り込むと非常に厄介な状況を生み出すことになります。たとえば、先日お話をお伺いしたある会社では、毎週月曜日と金曜日に、日本人だけの管理職会議を開いている、とのことでした。会議の内容は、主に本社サイドからの指示の検討、対応、そして現地子会社内でのオペレーションに関する方法などを話し合う、というもの。一方、その場で話し合われた内容は、後日各アメリカ人マネージャーにも英語で伝えられます。

お話した幹部の方によると、本社からの指示はすべて日本語であり、また直接窓口となってやり取りするのも日本人管理職。本社の状況など細かいニュアンスが汲み取れないと状況が把握できず、判断できない案件も多く、必然的に直接やり取りをする日本人管理職だけが会議を行うことになった、ということでした。これは、良く見られるケースですがここには非常に危ない落とし穴があることにお気づきでしょうか。


日本企業の慣行が連邦法に抵触する?

アメリカでは、公民権法第7編と呼ばれる連邦法があり、これは職場における雇用、昇進、解雇について定めており、人種、宗教、出身国、性別、肌の色、妊娠の有無、病歴等などの要因によるいかなる差別をも禁止しています。さて、この「日本人だけ」慣行には、この公民権法第7編に抵触する「職場差別」を生み出す可能性が隠されているのです。


日本の企業では、アメリカ人が言葉や文化の壁、さらに組織構造のあり方そのもののために、重要な意思決定からはずされてしまうケースが珍しくありません。重大な決定は、上記のような日本人だけの席で決められ、後々アメリカ人管理職に伝えられる事も日常茶飯事です。このように、肩書き自体は「管理職」であっても、自ら意思決定の場に参加できない、また参加する機会が与えられない、となればこれは明確に「恣意的に、また組織的にアメリカ人管理職を重要な意思決定から除外している」とアメリカ人の目には映ることになります。


さらに厄介なのは、そのおかげで組織内ではアメリカ人社員が正当な昇進のチャンスを与えられていない、と判断された場合です。日系企業の場合、上級管理職が本社派遣による駐在員で占められているケースも少なくありません。そうした土壌の上で、「重要な意思決定はすべて日本人だけで行われている」→「アメリカ人管理職が会社の運営から除外されている」→「その結果、昇進の機会も平等に与えられていない」→「結果、上層部はすべて日本人によって占められている」という状態が明らかになった場合、組織的にアメリカ人社員を差別しているとして訴えられた際に、日本企業が明確な根拠を持って反論することが非常に困難となるのです。


休日ゴルフも差別を助長するその一因に

そこに、「日本人だけで」週末にはゴルフに出かけ、また平日も飲食をともにしている、というような事実が加えられればさらにネガティブな要因が付け加えられてしまうことになります。なぜなら、こういう席で重要な意思決定が行われることも多いという日本のビジネス慣行は、アメリカ社会でも広く認識されているからです。


このように、企業内で「日本人だけ」慣行が見られる場合は、十分に注意を払う必要があります。特にミーティングなどは、アメリカ人社員を参加させて、なるべく幅広く意思決定に参加させる企業ぐるみの努力が必要となることはいうまでもありません。


一方、こういった差別待遇で集団訴訟を起こされた場合の企業へのインパクトの大きさも計り知れません。損害賠償や訴訟・和解費用などの金銭的なダメージから、企業イメージの低下、そして社員が被る心理的影響が生み出す効率の低下など、企業がトータルに受ける被害は想像以上です。アメリカの日系企業は、日本的な組織構造とマネジメントのために、常にこういった危機にさらされているといっても過言ではないのです。


状況のチェンジは本社の認識次第

こうなると本社と現地子会社のやり取りそのものも考慮する必要があるのはもう明らか。日本語でやり取りする限り、アメリカ人管理職を阻害する要因をつくることになり、それが現地子会社を法的に非常に脆弱な立場へ置くことになるからです。本社は日本のやり方で。現地は現地駐在員と現地社員で、本社の意思をうまくやりくりする。こういう構図は、現在のグローバルビジネスにおいてはもはや成り立ちません。


本社サイドが現地の法的環境、人的環境をより正確に理解し、現地社員を積極的にマネジメントに取り込んでいく姿勢を見せない限り、日本のグローバルビジネスはうまく機能しません。日本のグローバルビジネスは、まず本社が現地の様子を知ることから始まる。この単純な事実を、ぜひ、日本企業の本社の方々にも広く知っていただきたいと思います。

 
 
 

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